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Kanon / PSY U KEY











 さて、皆さんは【西遊記】と言う書物をご存知だろうか?
 おそらく知らない人はいないと思うが、簡単に説明しておこう。
 西遊記とは、三蔵法師と言う偉い坊さんが御供を連れて天竺まである目的のため旅をすると言った内容のものだ。
 ………………まぁ、今より遥か昔の時代のことだが。


 ―――やれやれ。何度“入れ物”をえようとも、〝彼ら〟は見えないいとで結ばれてるみたいだな。


 今回の三蔵法師一向は、また一癖も二癖もある奴のオンパレードのようだね。
 またソイツらと旅をする羽目になるとはね…………ククッ、第五十六代目三蔵法師・相沢祐一殿…?

 ホント輪廻ってのは怖い怖い。
 入れ物は違えど、中身は“あのとき”と全く同じ三人との旅なんて…………これも運命、か。
 また退屈しない一時を〝私〟に見せてくれよな―――。



 ―――え? 私は誰かって?
   ―――そうだな……。
     ―――この世界の生みの親、神たる創造主、観察者…………。
       ―――他にも当て嵌まる言葉はあるが、きっとこの言葉が一番〝キミ〟に合っているのではないかな。
         ―――語り部。



 さぁ、今一度旅に出ようではないか――――――。







 Kanon SS / PSYさい Uゆう KEY












 / 1 ~三蔵法師と呼ばれる男~

 …………小銃が吼える。
 身の丈ほどある巨斧で振り下ろしたわけでも、刺すという行為に特化した細剣で突き刺したわけでも、回転させることで遠心力を上乗せした長刀で薙いだわけでもなく、ただ一つ小さな動作。それはその手に握っている白鉄の引き金を人差し指一つで引いただけに過ぎない。
 カチャリと言う音が、非道く清んだ音色を生む。
 だが、遅れるように耳を突いたのは、全てを台無しにするほどの愚音。
 引き金を引くと言うそれは、人間が歩くために一歩足を踏み出すように極々普通のことで、特別な感情も要らない。何より初めてそれを手にしたときから今日まで指と一体化していないと思った日はなく、何故か手に馴染んでいる。
 男はこれを初めて引いたとき思った――――思ってたより軽いな。人の命を奪う重い武器は、こうも軽い玩具なのか。と。
 銃声と共に発射された銃弾が“妖怪”の左足を貫いた後、人間と同じ赤色の血が噴き出し、狂ったような絶叫が小五月蝿い虫の羽音のように聞こえたのを彼は確認した。
 苛立ちを籠めた唾を吐き捨て、とても不機嫌そうな顔つきで妖怪に詰め寄る彼。

「おいキサマ。誰に命令されて俺の命を狙う?」

 死にたくなければ答えろ、と男。
 上向けになって倒れて苦悶の表情をしている妖怪の両腕――肘関節――を、それぞれ自分の両足で踏み付け、腰を落とす。彼の顔は明らかに女性のような線の細さが際立っているが、瞳の鋭さとその口調、声音からして絶対に男性であることが解かる。
 ――――綺麗だ。
 妖怪はその左足と、左右の肘関節が痛いはずなのに、そう思わずにはいられなかった。

「……その耳は飾りか? なら、真っ先にそれからブッ飛ばしてやろうか」

 瞬時に返答が来なかったことが癪に障ったのだろう。撃鉄をカチリと鳴るまで引き、銀の光沢を奔らせている小銃の銃口を妖怪の右耳へ押し当てた。左手で妖怪の頭を押さえて銃口に近づけ、銃口と接している耳と側頭部を接着剤で固めたように押し付ける。思わず、ゴリッと言う嫌な音が耳元で聞こえた妖怪は震えを憶え、咽喉が渇きを訴えるのを感じた。

「――ま、待てッ」
「三秒だけ待ってやる。三……」

 質問に対する答え以外は受け付けないとでも言うべきか、妖怪の言葉に微塵の躊躇も見せずに秒読みを始める。
 仏道くらい雰囲気を漂う法衣を纏った格好から想像するに、位の高い僧侶かそれに近い何かの類であることは明白だが、仏道が殺生を禁じている律などこの男にとって“有って無いモノ”なのだろう。 
 異端……そんな言葉がピッタリ当て嵌まる理由は、数珠を首に掛け、法衣を纏い、経文を肩に掛けた僧侶が小さいにも関わらず拳銃を手にしているから――――と言うよりも、全身が煙草臭かったからに違いない。副流煙の臭いが染み付いたと言う範囲を遥かに越えていて、明らかに本人が吸う臭いの量だと断言出来た。

「二……」
「こッ、紅孩児こうがいじさまだッ!」
「………………そうか。分かった」
「教えてやったから俺を」
「じゃあ――」

 銃口を押し付けたまま、聞く耳持たないと口にせずに伝えるように、邪魔な虫でも見るように、言葉を吐き捨てると同時に、眉一つ動かさず表情を変えないで、人差し指で引き金を引く。パァンと消音装置が装着されてない小銃の咆哮が森林の森深くに響いた。
 彼は最後まで言葉を発しなかった。続きを代弁するかのように咆えた銃は無言で応えたのだ――――死ね、と。
 その動作に微塵の躊躇を見せない辺りが、この男の凄いところだろう。どれだけ苦しそうな悲鳴を聞いても、どれだけ痛そうな表情を見ても、どれだけ返り血を浴びようとも、罪悪感の欠片すら表面に出ない。それは正しく残虐な鬼か、それとも非道な修羅か。

 ――――紅孩児。
 妖怪と言う種族の最高位に存在する破壊と殺戮の王・牛魔王と、小顔ながら長身で妖怪屈指の美女と召喚術師・羅刹女との間に出来た一人息子である。生物の色を思わせない褐色の肌に、鋭いナイフのように釣り目の瞳。細腕に無駄なく敷き詰められた筋肉と、冥界の鬼と契約をした召喚魔を自在に操る、武と魔に長けた妖怪のプリンス的存在の好漢。若き妖怪たちのカリスマ。

「……ふん。やはりか」

 息絶えた若い妖怪の言葉から予想していた名前が出て来たことに、表情を変えることなく納得のためか、一度深い溜息を吐く。同時に小さく舌打ちをして、唾を斜め下に吐き捨てる。
 法衣の中から、格好と場違い過ぎるほどのそれ――煙草――を取り出す男。だが、経文を手にした法師が妙に手馴れた手付きで懐からライターを取り出して火を点ける動作は、何一つ違和感を感じることなくその瞬間彼が法師だと言う事実は全くなかった。まるで、煙草の煙にその事実が揉み消されたかのように。

「――――――サンゾーッ!」

 煙草に火を点け、最初の一服。それさえ満足にさせて貰えず――。

「――――――三蔵ッ!!」

 視線の遙か向こう、小さい何かが喚く。
 茶色い髪の毛を逆立てて、手足並に細長い尻尾を左右に振り、頭には金色の輪っ架を巻いた一匹の――

「――――ねーッ! 三蔵…ッ!!」
「ウッセーんだよ、猿!!」

 ――猿。
 見た目だけは妙に可愛らしい雌の猿が一匹。人間の身形をした、猿と呼べるかどうか解からない存在のモノが一人。男の元へ真剣な表情をしながら走ってくる。まるで、誰かの命に関わるようなほど一大事な事件が起こったのでは……。
 そう予感しても全く可笑しくない表情。
 そして、その猿のような人間のような……妖怪のような“彼女”は男の元へ辿り着くと、一言。

「腹減ったよ~三蔵」

 カチャリと撃鉄。
 コメカミをピクピクと震わせながら、男は銃口を彼女に向ける。

「……キサマの第一声はいッつもそれだな。もう少しは燃費良くしやがれ」
「我侭言わないでよ、三蔵。私だって好きで腹好かせてるわけじゃ」
「――その名を呼ぶな」

 三蔵、と言う名前が心底嫌うモノだったのか、男はその名で呼ばれることを極端に嫌っていた。だから、彼がいつも行動を共にする彼女には、“三蔵法師”を襲名する前の“本名”で呼ばせることを義務付けていた。

「ゴメンゴメン、祐一」

 ココ――――中国より遙か東国に存在する日本と言う小さな島国で生まれ育った名。
 相沢祐一の名。
 彼は彼女にそれを呼ばせていた。
 三蔵法師ではなくただの一市民の名を。




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2005/12/22   試作     トラックバック-0   コメント-0

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