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Asche Weg _Zwei

2005年04月の記事一覧

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Dear My Friend / Dear My Treasure

森川恭一 / 北沢都香


 とあるメンバーで突然起こしたDear My Friend企画モノ。
 急ぎ足で書き上げたものなので、微修正や加筆をしたいと思うところはあります。




 投稿先は流水月下になります。
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2005/04/29   投稿 / 流水月下     トラックバック-0   コメント-0

Kanon / Kanoncing SaGa 3 ~前奏曲~

相沢祐一 / 美坂姉妹 / 北川潤 / 久瀬










 黒と白が絶えず繰り返される世界。
 世界は暗い夜と光る雷が己を強調し合っていた。

 全てを喰らうような、闇深き漆黒の夜空を纏いし世界。
 煌々と輝く陽は遥か彼方へと沈み、優しい白光を発する真円の月が唯一つ天に存在している。
 暗く夜雲に覆われている今夜の灯は、光を忘れてしまったかのように著しく乏しい。

 神々の怒りを象徴しているように燦々と刺激する閃光と、激昂の如く鳴り響く轟音。
 煩いくらい永続的に降り続き、それ自体が一種の旋律のように無限に奏でる雨音。
 数刻前から頭上に君臨している夜雲―――雷雲から落とされる雷鳴が絶えず轟いている。

 ただ暗く、より暗く。
 ただ煩く、より煩く。
 夜と雷は何よりも互いを強調し合っていた。

 暗示。
 それはもしかしたら予兆だったのかもしれない。
 長い旅の幕開けを予感していたのかもしれない。


 キィィ!
 少し錆びた蝶番が稼動し扉を開ける音が【彼ら】の耳に届いた。

 それは突然の来訪。
 現在の時間と外の天候をまるで無視するかのように、その人は突然現れた。
 女性と見紛うほどの肉付きがない細身に、男女どちらとも取れる中性的な容姿の若い男性。
 男性より女性らしく、女性より男性らしいその容姿。
 羽織っている見るからに高貴そうなロングコートは、最早その効果を全く成さないほどずぶ濡れ状態。
 そのコートから滴り落ちる水滴は底が知れないように勢いが止まず、既に店内の床に大きな水溜りを作っている。
 揺れるように覚束無い足取りと、暗き沈んで今にも落ちそうな双眸は心身の疲れからだろうか。

「…………だ、誰か……助けて、下…さ…」

 来訪者は最後まで言葉を紡げなかった。
 冷たくなり弱った心身は己の限界を通り越して、保っていた意識を失い、沈みかけていた瞳は完全に閉じられる。
 意思のなくなった体を力が入らない両足で支えるなど出来るわけもなく、彼の両膝は曲がり重力に屈伏する。
 バタンと重く倒れる音が【彼ら】の耳に届いた。





 ――――――運命の輪はゆっくりと、時を刻むように廻り始めた。





Kanoncing SaGa 3
前奏曲プレリュード

作者 琉海





 時は少し遡る。
 森と山、山頂から清んだ水が流れる自然に囲まれた田舎町シノン。
 此処のとある酒場―――昼間は定食屋―――に【彼ら】は何の因果か巡り合った。


 ――――幼い頃から此処シノンで幼年時代を過ごした四人の若者たち。
 ――――つい先ほどこの酒場に足を運んだ、一人の流浪人。


 バーのカウンター席に座り、腰から提げた剣を傍らに置く流浪人。
 随分と古臭い外套は脱ぐことなく、皮手袋だけ外す。
 凛々しく整った端正な顔立ちに暗い瞳。
 その様相はどこか出口のない迷路を彷徨いし、人生の終わりを垣間見たような表情でもある。
 良し悪し関係なく、その表情は他人の興味を充分に惹くものに値した。
 現に店のマスターも流浪人のそんな表情に目を奪われ、暫し釘付けになっていることに気付いていない。
 流浪人が彼に強めの酒を頼むまでは、周りの景色など目に入らず意識が飛んでいるようにさえ思えたほどだ。
 だが、その後の彼は雑念や私情を挟むことなく仕事に集中しようとしていた。
 注文された酒をグラスに注ぎ、そっと流浪人の手元に置くその仕草は、まさにマスターとしての彼そのもの。
 流浪人が豪快に酒を飲み、一息吐いたところでマスターが話し掛ける。

「へぇ、いい飲みっぷりですね。お客さんはシノンに何の用で?」
「……特に用はない。今夜は嵐になると予想して此処に立ち寄ったまでだ」

 雨中を旅するほど愚かではないからな、と最後に紡いだ言葉は外の天気を指していた。
 つい先ほどから降り始めた雨は序々にその雨音を強め、彼の言うとおり嵐へと変わりつつあった。
 鬱陶しいように窓の外を一瞬だけ見て、懐から煙草を取り出す。
 慣れた手付きでそれに火を付けて一服。
 マスターから見たところ、彼は二十台前半とまだ若いようだがその口調はどこか冷めている。
 達観したような、悟っているような、冷めた返事。
 会話をしているようだが、ただ感情なく事務的に答えているだけのようにも思える。

「旅暮らしですか、天気を先読みできるほど旅は長いんですか?」
「……………………………………」
「お客さん?」

 咥えていた煙草を灰皿に置き、表情に陰が落ちる。
 深い悲しみの色が流浪人全体から溢れていた。

「―――――――――――――――――そう、………だな。いつからだろうな」

 その暗い言葉は小さいにも関わらず、暗さの中に物凄い重さを感じざるを得ない。
 悲哀を表現したその呟きは、マスターの続きようとしていた返事を圧倒させる。
 沈んだ声と表情から察するに、これは訊いてはいけないことを聞いてしまったと彼は思った。
 この質問は流浪人にとっては禁句だったのかもしれない。
 どこか気まずい雰囲気となり、彼は次に掛ける言葉が思い浮かばなくなる。

 カウンターに沈黙が訪れる。
 店内に聞こえるのは轟く雷鳴とガラス戸に当たる雨音。
 そして、いつもより遥かに大きく聞こえると感じる柱時計の音だけ。
 それらの音がやけに場の沈黙を強調させ、マスターには焦らせるように聞こえてしまう。
 音が一つ一つ聞こえる度に、彼は序々に困った表情をしていく。
 尤も、流浪人はまるで気付いていないように、静かに酒を飲み直していたが…。

 しばらくして、マスターは思い出したように洗い物をし始める。
 それは勿論彼にとって仕事だからだが、どちらかと言えば沈黙から逃げるためのほうが大きい理由だろう。

 そんな心情など興味ない流浪人が、中身の少なくなってきたグラスをぐっと呷る。
 咽喉を通して体全体に染み渡る温かさにほんの少し表情を緩ませる。
 そこで、何気なく目線を動かして、ふとある物が目に止まった。
 興味を惹くものが、一つ。

「――――マスター、家族いるのか?」

 初めてだった。
 流浪人から興味を持って声を掛けたのは初めてだった。
 そんな思いもしなかったことと、その内容にマスターは少し驚きながらも答える。
 ……………流浪人が見ていた、左薬指の指環を手で触りながら…。

「えぇ、妻と娘がいます。と言っても娘はもう巣立ってしまったんですけどね」
「…………そうか」

 笑って嬉しそうに、だが半分照れくさそうに言葉を返すマスター。
 その表情からは真意が読み取れて、とても幸せそうな様子が解かる。
 流浪人もたった一杯の酒に酔ったのか少し嬉しそうに、それでいて少し羨ましそうに頷く。
 そして、小さくふっと微笑んでから同じ酒をもう一杯注文した。
 だが、気を引き締めるように表情を変えて強く言う。

「こんなこと俺が言うことではないが…………大事にしろよ。
 ――――本当に大切なものというのは、失い気付いてからでは遅いんだ」

 マスターより年下の流浪人が言う台詞にしては何故か重みがあり、緊張が場を包んだ。
 ――――何故だ、マスターは考える。
 目の前にいるのは自分よりも年下の青年だというのに、何故そんな重い言葉を語ることが出来る…?
 その真剣な表情と言葉に籠めた重みは真意だった。

 それは、儚く憂いを帯びた瞳がそう感じさせているのか。
 それは、寂しげに酒を飲む姿がそう感じさせているのか。

 どうしてこんなにも胸が苦しく痛くなるのだろう。
 実年齢では考えられないほどのナニカをまだ若い彼は背負っている。
 マスターにはそのように感じ取れた。

「―――――――――そう。遅いんだ」

 手にしたグラスを強く握り締め、嘆くように小さく繋げる流浪人。
 辛く悲しそうに呟くそれは後悔。
 マスターに対しての言葉だったが、それはまるで自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
 忘れないように心に深く刻み込む。
 そんな様子が長年生きてきたマスターにははっきりと想像できた。





 ――――――――――――姫様、俺は強くなれましたか?










 テーブルに腰掛けて、飲み物を手に持って談笑している四人の若者たち。
 シノンで育った彼らは、毎日の日課である町全体のパトロールを終えたところであった。
 彼らは男二人、女二人がそれぞれ隣同士でテーブルに座っている。
 補足すると、飲み物は地元の山から流れる綺麗な水を使ったお茶である。

「どうして雷が鳴るとモンスターが来ないんですか?」

 突然、思い出したように一番若い女が皆に訊く。
 小柄な女、というよりはどちらかと言えば少女に近い可愛らしさがまだ残っている。
 髪の毛はさらさらで癖がなくストレートで、肩まで届かないショート。
 コップを両手で持つところは、かなり幼く見える。

「さっき見回りが終わったときにフユヒコさん言ってたじゃないですか。
 雷が鳴ってるから今夜は安心だって」

 フユヒコ、と呼ばれた男に視線が集まる。
 比較的高い身長に、ほどよく絞られている体と、軽く掛けられた眼鏡。
 髪の毛は癖っけがなく滑らかに肩先まで伸びている。
 一目見ただけで、彼は肉体派ではなく頭脳派だということが解る彼の名はクゼ・フユヒコ。

「ふむ、それはだね―――」
「稲光が嫌いなモンスターが多いからよ、シオリ」

 集中した視線にも動じずに言おうとしたフユヒコの言葉を遮り、少女の隣にいた女が答える。
 素っ気ないように端的に答えたが、それは教え子から質問されたことを正確に教える先生のよう。
 その少女――――教え子の名前は、ミサカ・シオリ。

「へぇ~、そうだったんですか。お姉ちゃん物知りです」

 シオリは少しばかり尊敬の眼差しを向ける。
 隣のお姉ちゃんと呼ばれた女の名はミサカ・カオリ。
 少し複雑な事情があるが、二人は姉妹である。
 カオリの容姿は妹のそれとは違い、立派に成熟された女、その一歩手前の美人系。
 毛先は元からの癖毛なのか、ウェーブがかかっていて、その長さは肩下まである。

「それにしても…………稲光が苦手だなんて、シオリちゃんと似てるな」

 フユヒコの隣に座っている男が苦笑しながらそう呟く。
 金髪の中に一本だけ立っているアンテナのような癖毛を生やした、そんな男。
 フユヒコより若干背が低いが、全体的に筋肉質な体つきをしている。
 こちらはフユヒコとは対称的に肉体派なのだろう。

「む~、ジュンさん酷いです」

 饅頭でも入っているかと思うくらい、頬をぷっくりと膨らませるシオリ。
 本人は怒っているつもりなのだろうが、如何見ても、全く、微塵も、これっぽっちも、怖くない。
 彼女の幼いような可愛らしい顔では、如何しても怖いとは思えないのだ。

 金髪の男、キタガワ・ジュンの軽い冗談。
 皆苦笑しているところを見ると、この光景はいつもどおりのことのようだ。
 カオリがそれに悪乗りして、最後にはフユヒコが宥めるという展開。
 ………………実に平和だ。





 一通り談笑が終わり、ジュンがフユヒコにそっと話し掛ける。
 カオリとシオリ――――二人には聞こえないほど小さな声で。

「なぁフユヒコ、カオリと話が―――」
「了解した。まぁ、頑張りたまえ」

 お邪魔虫たちは退散するとしよう、と椅子から立ち上がり言葉を続ける。
 ジュンの肩に手をポンと置くフユヒコの表情は、何処か楽しそうな感じがする。
 最後までジュンの言葉を聞かなくとも、フユヒコは彼の言いたいことを瞬時に理解出来た。
 それは先読み能力や読心術でもない。
 彼の“毎度の顔”を見るだけで“いつも”のことだと察し、求める用件など容易だった。

「シオリちゃん、今から料理を作るんだけど手伝ってくれないかな?」
「いいですよ。でも、この時間から食べるんですか?」

 シオリの言うとおりだった。
 現在の時間は、もうじき日付が変わろうとしているそんな夜遅い時間。
 そんな遅くから何か食べるということは乙女で少女のシオリには抵抗があるのかもしれない。

「今から重いものはちょっと……」

 そう言いながらも、料理することがまるで当たり前のように厨房へと向かっているフユヒコの後を見て言うシオリ。
 夢見る年頃の少女シオリは、賢人である彼に何年前から恋している。
 そんな想い人から「手伝ってくれ」などという誘い言葉をどうして拒否できようか。
 今から食事することに喜んで賛成は出来ないが、そこは愛の力なのだろうか。
 結局は彼の後を追うのだが、そんな想い人のことなど当の本人は全く知らない。

「マスター、少しばかり厨房借りるけどいいかな?」
「あぁ、構わんよ。お前さんたちの料理の腕前は知ってるからな。
 誰かさんみたいに厨房で爆発事故さえ起こさなければ、勝手に使ってくれ」
「マスターっ! 聞こえてるわよ!」

 テーブルの方からカオリの声が届く。
 文句に近いほどその声は大きかったが、それは決して否定の言葉ではなかった。
 それはつまり、その“誰かさん”が認めているということに違いない。





 フユヒコとシオリは実に手際よく、厨房で調理を進めていく。
 合間に言葉を挟まなくとも自分のすべき仕事を二人とも実に解っている。
 その息の合った、まるで阿吽の呼吸の二人はまるで長年付き添った熟年夫婦のよう。
 それでいて、本当に楽しそうに初々しい会話は新婚夫婦のよう。

「フユヒコさんって本当に何でも出来ますよね、羨ましいです」
「ありがとう。でも、これは先天的な素質ということではないよ。
 我が家の古臭い伝統でね、闘い方から家事まで全部一人で出来るように幼い頃から教育させられていたからね」

 遠き幼い日々を思い出しているのか、フユヒコは苦笑しながらフライパンを振る。
 熱を通してフライパンの上で挽き肉と野菜が踊り舞い、そこに菜箸が忙しなく動き回る。
 ただ鮮やかに、ただ素早く、受け入れるのは充分過ぎるほどの火力。
 その目は常に炒め物に向いているが、その耳はシオリの言葉を正確に捉えている。

 二人の作業速度は常に一定で、全くと言っていいほど無駄がなく躊躇するような長考はない。
 ちらりとシオリを見て、少し会話する余裕があると判断したフユヒコは言葉を続ける。

「………中でも一番厳しかったのが僕の祖父だったな」
「あの人は……………いろんな意味で凄いですよね」
「ははっ、確かにあれは既に人外と化しているね」

 フユヒコの祖父に会ったことがあるのだろう、シオリが思い出しながらそう返す。
 二人の様子だと、とんでもないお爺さんということしか想像出来ないが…。
 
 今日のことや最近起こった出来事等を楽しく話しながら、二人は順調に調理を進めていく。
 口だけでなく、目や手も休まず動かしている。
 流石手先が器用で、料理が得意な二人なだけある。

(さて、ジュンのほうは上手くやっているかな)





 二人が厨房に向かった後、ジュンはカオリの隣――――シオリが座っていた席に座る。
 そこで今日の昼間に聞いた情報をカオリに持ち出す。

「なぁカオリ、昨日ヤーマスからの船がミュルス港に着いたんだってさ」
「へぇ、そうなの。それで?」

 ヤーマスとは、シノンからはかなり遠い商業の町として有名なところだ。
 貿易が盛んで港には他国の船が毎日行き交う、山脈と海に囲まれた自然の街でもある。
 そして、田舎町シノンから一番近い港町がミュルスだ。

 カオリは「だから何?」と、全く興味なしと言った顔つきで、返事も実に素っ気無い。
 コップに入ったお茶を飲みながら、ガラス戸に映る雨をじっと見つめている。
 ここ最近、カオリが良くする表情が今のような表情で、何を思っているのか全く想像がつかない。
 腑抜けているとは少し違う、心がどこか遠くに行っている、そんな状態。
 返事も適当に相槌を打つようなそんな仕草だ。
 だが、ジュンは解かっていながらそれでも興味を惹こうと話を続ける。

「そのミュルスに着いた物がロアーヌまで運ばれて来てるんだ。
 一緒に見に行かないか? 何か買うのもいいしさ」
「………………貴方と一緒に見に行くことに関しては構わないわよ。でもね、ジュン。
 これは前から言ってることだけど、私は貴方と恋人とかそんな関係にはなれないと思うのよ」

 カオリは視界をまだガラス戸のままにして、表情は少し悲しそうになる。
 その言葉に籠めた申し訳ない気持ちが伝わり、親友のジュンはがっくりと肩を落とす。
 彼女の言うとおり、この言葉は幾度となく言われてきたのだろう。
 追い撃ちを掛けるように、彼女は暗く沈んままの彼に言葉を続ける。

「私たち、昔から何でも知ってる仲じゃない?
 あまりにも近すぎたのよ。とてもじゃないけど、恋愛対象として見る事は出来ないわ」



 そんなときだった。
 酒場の扉が開いた音が聞こえたのは――――。


 雷鳴と雨音に混じり聞こえたのは、儚く錆びれた音。
 外からの来訪者が奏でれ開かれたのは、運命の扉。
 全てはこの瞬間から始まったのだ。















「………ぅ………んぅ……? …………はっ!?」

 酒場を湧かせた突然の来訪者は、気を失ってから僅か三十分ほどで目を覚ました。
 ここに来るまで着ていた服はずぶ濡れで、このままではいけないと今はマスターの予備の服を代わりに着させていた。
 脱がした服を乾かすのと同時に、邪魔なロングコートは暖炉の傍に置いてある。
 これらが完全に乾くのはまだ随分と先のことだろう。
 もしかしたら、明くる朝にならないと無理かもしれない。

 来訪者はここに来るまでのことを思い出して状況を把握するなり、馬を貸してくれとマスターに頼み込む。
 その焦りつつも真剣な表情を見る限り、余程急ぎの用事なのだろう。
 マスターはそう感じ取り、条件付きで許可を出した。

「馬でしたらこの酒場の裏口に何頭かいますよ。必ず返してくれると保障してくれるのならどうぞ」
「……あ、ありがとうございます! 必ず返しに来ま―――」
「やめとけ」

 来訪者の言葉に態と入り込んだように、流浪人が口を挟む。
 カウンターに座ったまま来訪者に背を向け、未だ酒を飲み続けている彼は否定する。
 それははっきりとした強い意思。

「アンタ、ロアーヌ候サユリの弟・カズヤだろう…?
 この雨の中、護衛も付けずに態々一人で行動しているなんて只事じゃない。
 かなり厄介なことが起きてるってことだろ」

 関係ない奴が下手に首突っ込むのはやめたほうがいい、と流浪人。
 相変わらず椅子に座り、話をするには無礼過ぎるほど背を向けている。

『サユリ姫の弟!?』

 シノン民とマスターを含めた五人の中の誰かしらの声が上がる。
 それは決して一つではなく、二人かもしれないが五人かもしれない何人の声が見事に重なっていた。
 複数揃って驚きの声を上げるが、それは至極当たり前のことだ。
 今彼らの目の前にいる男は、高貴な人という言葉では足りない人間なのだから。
 その正体は、田舎町シノンを統治しているロアーヌ国の王族の正統血筋の男。
 それも現統治者のたった一人の弟君。

「だったら尚更だぜ。俺……僕たちに何か出来ることがあれば何でも言って下さい」

 ジュンは俺と発した言葉を慌てて言い直す。
 それはあまりにも言い馴れない言葉で、シノン民たちは違和感を感じる以外他になかった。

「早く姉様のところへ行かないと。でないと大変なことに……」
「ジュン、カオリさん、シオリちゃん、僕たちも馬を出す準備しよう」

 ジュンとフユヒコは、カズヤの護衛をすることに関して既に同意しているようだ。
 カオリとシオリも、その場の雰囲気から馬の準備に取り掛かろうとしていた。
 経験したことない状況なのか、全くと言っていいほど頭が働いていない。
 そう思った流浪人は溜息を吐きながら、

「ふーっ、お前らどういう事態になっているか理解していて、それを実行しようとしているのか?」
「へ?……」
「先代ロアーヌ候の〝突然死〟から僅か三ヶ月の今、当代ロアーヌ候は〝何故か〟城を留守にしている。
 大量のモンスターが発生したという〝何者か〟の警告文によってな。こうしてサユリは大軍を率いて遠征。
 …………………お前ら、可笑しいと思わんのか?」

 早口で捲くし立てながら、ところどころ含んだ言い方で四人に問い掛けた。
 煙草を灰皿に擦り付けた後揉み消して、椅子から立ち上がる。
 その瞳は鋭く睨むように四人を捕らえて離さない。
 何も考えずに正義感だけで行動する四人に苛立ちさえ覚えるが、それを抑えているようだ。

「…………こう考えたほうが自然だろ。
 先代の死は計画されたもので、王族の誰かが王位に就きたいがために計画したことだと。
 練られた計画は、おそらく先代を何らかの方法で殺してしばらくサユリを泳がせる。
 何のためか? それは統治者が変わったことで落ちた民衆の支持を一定まで回復させるためだ。
 で、城下町の信頼を集めた頃を見計らって、偽情報を流す。
 ロアーヌ候に助けを求めるような文を寄越して、城内部の警護を薄くさせる。
 そして――――――まぁ、ここからは言わなくてもわかるだろ」

 あまりにも具体的過ぎるその発想について疑問の声を上げる者はいなかったが、納得出来る内容だった。
 流浪人が何を言いたいのか、それは言わずとも誰しもが想像できる。
 城内に残っている正統血筋のカズヤを殺し、城を拠点とし地の利を活かして帰還したサユリを抹殺。
 代々続くクラタの一族を抹殺することによって、今後当主が別の誰かに代わる。
 それが三ヶ月以上前からの布石であり、敵対する派閥代表の目的だったのだ。
 長年仕えてきた国への裏切り行為。
 だが、それでも信じられない思いがあったのか、フユヒコが確認のためにカズヤに問う。

「……カズヤ様はそれを伝えに遠征中のサユリ姫のところまで?」
「…………はい」

 流浪人はカズヤの言葉で確信して、溜息を吐きながら言葉を吐く。
 それは推理なんてものじゃなく、長年の経験から染みついた“予想”だった。

「ふーっ、おそらく城内で黒幕か側近のそんな発言を聞いてしまったんだろ」
「…………はい」

 だが、カズヤ一人ということはどうやら思っていた以上に敵対派閥者が多いようだ。
 それかここに来るまでに護衛が殺されたか、のどちらかだと解かる。
 ロアーヌ崩落は時間の問題だと流浪人は思った。

「ったく、それだと今ロアーヌは離反者たちの要塞と同じだ」
「………………………」















「いいんですか、追わなくて?」

 店じまいなのかグラスを洗い整理しているマスターは酒場にただ一人残った俺に問う。
 結局、アイツら俺の忠告を無視してカズヤを護衛しつつ、サユリのところまで届けるなんて言いやがって。
 サユリが遠征している野営地まで馬を走らせるなんて無謀過ぎる。
 敵が野営地まで何も罠を配置してないとでも思っているのか。
 普通はそんなこと百パーセント有り得ないことだろ。
 アイツらの経験不足な腕でホントに無事届けることが出来るのか…?

 ………………ん? 俺は何故あんなヤツらのことを気に掛けてる…?
 別にロアーヌが如何なろうと、俺には関係ないはずだ。

 何故だ、妙にこの時間が静かに感じて落ち着かない。
 雷はさっきから止んでいるが、雨はまだ勢いが落ちず降り続いている。
 この静けさが時間の感覚を鈍らせて、時の進み具合を遅らせているように思える。

「それでは個人的にお願いします。その曲刀で彼らを“助けて”くれませんか?」
「…………ほぉ。手伝って、じゃないんだな」

 最後の一杯というグラスを口に運ぶ手が一瞬止まった。
 正直言うと、少しばかり驚いた。
 それは何気ない言葉の違いで、ちょっとした上下関係を表現していた。
 つまり、俺のことをアイツら以上に評価しているということ。

「えぇ、貴方がただの旅人ではないことぐらいわかりますよ。
 これでもあのナジュ王国生まれで、ここまで自分の力だけで砂漠を渡ってきたんですから」
「な―――にぃっ……。アンタ、あそこの生まれなのかっ!?」
「え? えぇ、そうですけど何か…?」

 ふ………ふははっ、こいつはおもしろい。
 こんな遠くの田舎町で、何ら共通点がない酒場で、まさか数少ない同胞に出会えるとはな。
 まだ俺の他にも生き延びた王国の人間がいたのか。

「いや、何でもない。それより馬一頭余ってないか?」
「余ってますけど……って、助けてくれるんですかっ!?」
「あぁ、少し気が変わった。
 この曲刀カムシーンの名に掛けて、アイツらを無事サユリのところまで送り届けてやるよ」
「曲刀カムシーン!? 貴方もしかしてあの有名なトルネードっ!?」

 ………久々だな、その呼び名も。
 まぁいい、今日は昔を思い出すのも悪くない日だ。





トルネード


俺をそう呼ぶ奴もいるな


だが 今の俺の名はユウイチだ


アイザワ・ユウイチ





 To Be Countinue …?



 あとがき

 没ネタSS公開ということで、まずはKanonとロマサガ3のキャスティング変更モノ。
 ちなみに、これを書いたのは半年以上昔なので多数修正されてます。
 内容は一切変更点ありませんが、台詞や描写などは色々と弄らせてもらいました。
 流石に以前のままでは公開する勇気はありませんでしたので。

 キャスティングについては以下の通りです。
 先ずはシノン開拓民。
  エレン  ⇒ 香里(理由は以下のサラを参考に)
  サラ   ⇒ 栞(この二人はどちらのゲームでも姉妹だったので)
  トーマス ⇒ 久瀬(文武両道キャラが彼しか思いつかなかったので)
  ユリアン ⇒ 北川(エレンに恋している→香里に恋している→北川という流れで)
 次にロアーヌ王族。
  ミカエル ⇒ 佐祐理(気品溢れる王族キャラが彼女しか思いつかなかったので)
  モニカ  ⇒ 一弥(ロアーヌ候の弟という理由から)
  カタリナ ⇒ 舞(武芸に長けて王族に尽くすキャラが彼女に合っていると思ったので)
 最後に主人公。
  ハリード ⇒ 祐一。
  それなりの過去があるというのは主人公としては扱い易いかなと思ったので。
  もう一つの理由として、個人的にハリードが好きなので。

 キャスティングについて。
 ミカエルとモニカの性別が逆だというのは気にしないでください。
 年下の一弥が王位に就くというのはどうも可笑しいかなと思ったので。
 設定では、ハリードの過去を少し弄りました。
 変更点をそれらしく表現させたんですけど、どうも自信ないです。

 他のKanonキャラ(秋子さん、名雪、美汐、真琴、あゆ)は未定です。
 親子で出演しているキャラがいれば水瀬親娘を出したかったんですけど……いませんし。
 美汐と真琴も当てはまるようなキャラがいなかったので。
 あゆはタチアナに合っているような気がするんですけど(常に走ってますから
 まぁ、現時点ではまだ保留ということで。

 最後になりましたが、これは長編というより短編連作のつもりです。
 ロマサガ3はフリーシナリオでクリアイベントの順番が決まっていません。
 四魔貴族は別ですが、クリアに関係ないサブ的シナリオもありますから。
 例えば氷湖、死者の井戸、聖王廟、神王の塔、氷銀河、etc。
 これらの順番は私が暇なときに適当に決めます。
 つまり、これの更新は私が物凄く暇なときしかないということです。
 まぁどうせ、後半の修正がダルくなったという、やる気が感じられない作品ですし(マテ
 
 補足として、このSSの久瀬の名は冬彦です。


2005/04/26   短編     トラックバック-0   コメント-0

CLANNAD / カナリヤ

岡崎朋也 / 藤林姉妹


 問答無用で四捨五入の雲丹さんとの合作SS。前半が雲丹さん、後半が私担当。
 最後の展開に、前半担当の雲丹さんはあまり良い声をくれませんでしたが……。




 投稿先は問答無用で四捨五入になります。

2005/04/11   投稿 / 問答無用で四捨五入     トラックバック-0   コメント-0

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